クリスタルラインの呼び声

マウンテンペアーの国とロングフィールドの国の境に広がる広大な山岳地帯を抜ける秘密の道。誰が言い出したのかは定かではないが、それはクリスタル・ラインと呼ばれている。この地方の長い冬が明け、鉄柵に閉ざされていたその道は開かれた。

クリスタルに導かれし暁の勇者たちよ。集え、そして走破せよ。


(姥の栃改め)心の大樹の前にて

・・・そういう啓示を、XSR乗りである同僚のPくんが受けたらしい。心の大樹から。


それで彼が梅雨の合間の好天が見込まれる土曜、「ぜひにクリスタルラインに行きましょう」というオーラを漂わせているので、本来はその日に御荷鉾スーパー林道にチャレンジしようかと思っていた俺は、こう提案した。

「クリスタルラインを抜けたら10kmくらいの林道があるから、そこを走らせてくれるなら一付き合おう」

こうして盟約は交わされた。

そして当日。

俺はさいたまから、Pくんは川崎からなので、中央道の初狩PAで8時に集合。互いに少々遅れたが、9時頃には出発。勝沼で降りてフルーツライン。

さくらんぼの時期らしく、走っていても可愛らしい赤い実が見えた。写真に撮りたいと思いつつ、つい停車を面倒がって進んでしまう。「次にさくらんぼの木があったら止まって写真を撮る」と思って以降、さくらんぼの木は一本も出現しなかった。あるあるだ。

とはいえ、コロナ自粛明けの観光農園には父母に挟まれて飛び跳ねるキッズの姿も・・・まあ、平和だ・・・。

ほどなく牧丘に付き、軽く一休みしてまた出発。山梨側からクリスタルラインに入る。

クリスタルラインに入ってすぐ、プロヴァンス地域にさしかかる。この甲府盆周縁部の斜面の、段々に石垣を組んだ葡萄畠エリアを俺は「日本のプロヴァンス」と認定している。

そして、ふるさと納税で山梨のシャインマスカットを頼んである俺は、で、俺のぶどうの育ち具合をチェック。



半月前には海ぶどうくらいだったものが、グリーンピースにしてもデカいなというくらいの大きさには育っている。よしよし。立派に育ってくれたまえよ。

・・・まあ、俺の頼んだのが正確にこの農園のものかはちょっとわからないけど。山梨ではあるからだいたい合ってるはずだ。

クリスタルラインは、プロヴァンスを抜けて周囲が森になると、しばらくはわりと快適なワインディング。やや狭く、ややゴミ(枝や枯葉)の多い道だが、酷いということはない。むしろすこぶる良い。舗装は綺麗で交通量は極小、十分な安心感もある。

乙女湖の少し手前右側に、最初の写真の巨木「姥の栃」があり、その足元に湧き水がある。「姥の泉」だ。いや、俺は「木の泉」とでも呼ぶことにしよう。その方がいい。




・・・その昔。この地に猟師の男がいた。その日は不猟で、夕闇が迫る山道を音は急ぎ降っていた。すると、いつからそこにいたのか醜い姥がうずくまっている。姥は言う。この先に水場があるが、自分の脚では行けぬ。どうか連れていってくれないか。日暮れが気にはなるが、哀れに思った男は快く姥を背負い、言われるままに山を分け入った。なるほど、こんこんと湧き出る泉に行き当たり、男は姥を降ろした。生真面目な礼を述べつつ泉の水を飲む姥を男は見るともなしに見ていた。するとどうだろう。姥の枯れた手足はみるみる白く滑らかとなり、その顔はどう見ても元服前の少女そのものであった。「私はトチノキの精霊ですが、幼さゆえに根を離れ乾いて死にかけていました。助けてくれた貴方にお礼として、この泉の水を差し上げます」・・・・甘露の如きその水は、やがて評判になったが、男はこれを「山姥の水場である」と言いふらした。理非を弁えぬ輩が群がりあの幼いトチノキが折られてしまっはいけない。男はそう思ったのであった。

・・・なんて話は、どこにも書いていなかったけど。


まあ、ここでボトルに水を汲んでおく。
ひっそりと地蔵もいる。木霊もいそうだ。カタカタと首を傾げている様子が眼に浮かぶではないか。




コロポックルもいた。いや違った、俺だった。


よく見るとなかなかいい場所だと話しながら一服して、また出発。

そして、どうせ乙女のいない乙女湖はスルーして、そのまま焼山峠方面へと。

しばらく走るといつも休憩する、眼前に大きな岩峰(奥秩父の盟主・金峰山というらしい)が見える展望スポットがあるのだが、なぜかそこに工事の飯場が出来ていた。工事するのは結構だけど、なんだってこんな一等地に・・・。クリスタルラインの公式ガイド(http://crystal-line-guide.info/01.html)でもビューポイントとして紹介している場所なのに。

プレハブの横で飯食っても楽しくないのでスルーして進む。

しばらく行くと砂防ダムの手入れ用か?の駐車スペースがあったので、そこで昼飯にすることにした。少し早いが、朝食を食ってないので腹は減っていた。



例によってのハングリアン民族スタイル。姥の泉の水にて調理。さらに箸は現地で拾った桜?の枝からクラフトだ!

実は割り箸もフォークも持参している。だが敢えて粗末な箸で。これを何年も続けたら箸職人のような作品ができるようになるかも知れないし。

牧丘の道の駅で調達していたおにぎりも食べ、さらに食後のコーヒーも飲んでまったりしても、まだ12時半。

俺のライフスタイルにしてはだいぶ早起きをした甲斐がある。今日はたくさん走れそうだぞ!



クリスタルライン中程の伐採ゾーン。整然としていてちょっと面白い。なんというか木を伐っているというより「木材を生産している」という印象がある。

林道は、砂利道を走れるという意味では面白い。しかし自然をこよなく愛する?俺としては、それが伐採のためのものだと考えると少し複雑でもあった。が、最近は、結局のところ木でも石でも資源は必要で、それは計画的に行われるのであればけして「破壊的」なものではないだろうということが、ようやく実感できてきた気がする。理屈は小学生の頃から知っていたけども。肌感覚として。

それに、伐ってしまったに過ぎないとしても、ひらけた斜面の向こうに重なる険しい山々の組み合わせが何かアルプスライクで、ちょっと気分も高揚する。



そしてクリスタルラインと言えば、これ。クサソテツ?シダっぽいこの植物がやたらたくさん生えていて、それがそこらの峠道とはちょっと違うファンタジックな景観を作り出している。

ファンタジックというかジュラシックというか。


そしてクリスタルラインの終盤。

このあたりはだいぶ舗装も荒れてきてまた面白い。とても楽しいのでつい軽快に走り抜けてしまって毎度写真を撮り損ねる。

そしてその荒れた舗装エリアを抜けると、こんどはやけに路面が綺麗になってきて、ひらけた林の中の道となる。

平らな谷の明るい林床とその奥を縫う細い流れから、この場所は「ティモテ」と呼ばれている。俺に。





この場所を直進すれば増富ラジウム温泉に瑞牆湖。右にクリスタルラインをなぞれば黒森へ。
今日はそっちだ。

瑞牆湖の(残念ながらちっともブレイクしない)ツインテール美少女みずもちゃんに会いに行くのも悪くないが、今日はまだ、クリスタルラインを逸れるわけにはいかない。

酷道として名高いクリスタルライン。走る者も少ないが、それでも一部のマニアは好んでこの道を行く。だがそんなマニアでさえ、黒森で町道610号に行き当たると、あたかも林道が終わったように感じられ、そのまま北の信州峠に向かってしまう人も多いのではないだろうか。

クリスタルラインの終盤、最後の山場と言えるエリアはここからだ。2車線の普通な生活道路をしばし、信州峠と逆に南下すると、右手に「岩屋堂」への案内があり、高須林道が分岐している。この高須林道、舗装路だがともかく酷い。

とくに東からのアクセスの序盤、1車線の両側から草がせり出して0.8車線くらいになっているし、舗装は傷んでいるし、途中の小さな橋は泥プール状態だったし。

泥プールでは直前で停車した際にフロントが滑り転けそうになったが、買い換えたブーツのタンク底が功を奏して踏ん張りきれた。あぶねえ。

冷静に考えてみれば、泥はたまっているがコンクリートの橋なので、おとなしく泥水の轍を走ればいいだけであった・・・それでも、結構厚い泥の上を走ったので結構びびったけども。ANAKEE3は泥ではまるでグリップしないと思う。


ドロドロ橋を超えて、森のラーメン屋を過ぎたあたりからはいくら道も広くきれいになり、R141の清里、クリスタルラインの終点まであと3、4kmのあたり。

これを抜けると、クリスタルライン完走という栄誉は手に入るが、しかしそこはどうでもいい国道の信号でしかないので、1回だけ行っておけば十分過ぎる。

なので、八ヶ岳ビレッジという別荘地の手前の分岐、オレンジの標識が行き止まり風になっているところを北へ入ると、




林道横尾山線。

そう、これが今日のいわば目的地だ!

ツーリングマップルによれば「フラットダート」とのこと。

大型バイクにも慣れず、初林道で立ち往生しバイクを転かし、すっかりビビりが入っている俺のアドベンチャー・リハビリテーション的には程よいんじゃないの?

ということで、長くなったので次回に続きます。

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